3月3日が大嫌いだった。 平日でもお構いなしに父方の祖母に呼びつけられ、母は私のために雛祭りの準備を一人でやらされるのだ。 「手はちゃんと洗ってきたかい?代々伝わる貴重な物なのだからね、本当ならあなたのような卑しい身分の者など、見ることすらかなわないものを触らせてあげるのだから感謝しなさい」 母は私が生まれてから祖母が亡くなるまでの13年、雛人形を飾るために最初の箱を開ける時、毎年毎年一語一句、違わず言われたのよと笑った。 私は母が祖母から嫌われているのも悲しかったが、何よりその代々伝わるという雛人形を見なければならないというのがとても嫌だった。胡粉を塗った顔はどす黒く汚れてひび割れ、まるでみぞおちの痛みをこらえているかのような苦悶の表情に変形した人形たちが一斉に私を見下ろすのだ・・・・人形が飾られている部屋には絶対に一人では行けなかった。便所へ行くにも人形の部屋の前を避けて、わざわざ遠回りをしたほどだ。 「あの人形・・・どうしようか?お義母さんはあなたにあげると言っていたのよ」 祖母の葬式から帰ってきて、こたつで一息つきながら母はつぶやいた。 などという書き出しで、何か怖いお話でもしたくなるような雛人形が並ぶ昼下がりの士別市市立博物館。大正や昭和20-40年代の雛人形が何セットか展示されたんだけど・・・どれもこれも表情が胡乱だったり怖かったりで途方に暮れたよ。結局見せられるのはこれだけ。別展示になっていた、ごく最近のもの。 |
・・・いやその、うかつなものを掲載すると祟られそうだし。 5日まで展示するそうだ♪ |